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日本工業規格の著作権


(重要)現時点での政府(=日本工業標準調査会)の見解は、この文章の結論部分「工業技術院標準部のコメント」と違っています。再度考察した結果を「日本工業規格の著作権(第二版)」としてまとめました。興味のある方はご覧ください。(2003.3.11 記)


当サイトを公開するにあたり、日本工業規格の著作権について調べました。
結果をここにまとめておきます。


当サイトを公開しようと思ったきっかけは、著作権法(昭和45年5月6日 法律第48号) 第13条を読んだからです。

(著作権法 第13条)

次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一 憲法その他の法令
二 国又は地方公共団体の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行なわれるもの
四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国又は地方公共団体の機関が作成するもの

私はこの二号または四号に日本工業規格が該当すると考えました。該当するならば日本工業規格をWebで公開する行為は著作権法上問題がないことになります。

ところが私の手元にある規格票の裏表紙の裏には、次のように書いてあります。

(JIS X 0201-1997 の規格票の裏表紙の裏)

編集兼発行人福原元一
発行所財団法人 日本規格協会

また表紙の裏には、次のように書いてあります。

(JIS X 0201-1997 の規格票の表紙の裏)

主務大臣:通商産業大臣
制定:昭和44.6.1
改正:平成9.1.20
官報公示:平成9.1.20
原案作成協力者:財団法人 日本規格協会
審議部会:日本工業標準調査会 情報部会 (部会長 棟上 昭男)
この規格についての意見又は質問は、工業技術院標準部情報電気規格課(〒100 東京都千代田区霞が関1丁目3-1)へ連絡してください。
なお、日本工業規格は、工業標準化法第15条の規定によって、少なくとも5年を経過する日までに日本工業標準調査会の審議に付され、速やかに、確認、改正又は廃止されます。

日本工業規格は誰の著作物なのでしょうか?
規格票は誰の著作物なのでしょうか?
日本規格協会の著作物なのでしょうか?

日本工業規格の法的根拠となる工業標準化法(昭和24年6月1日 法律第185号)を調べる必要があるようです。

(工業標準化法 第16条)

主務大臣は、工業標準を制定し、確認し、改正し、又は廃止したときは、これを公示しなければならない。

日本工業規格を制定、確認、改正又は廃止するのは、「主務大臣」のようです。

「公示」はどのように行われるのでしょうか?

(工業標準化法施行規則 第54条)

法第16条に規定する公示は、その工業標準の名称及び番号並びに制定、確認、改正又は廃止の別及びその年月日を官報に掲載するものとする。

公示は「官報に掲載する」ことにより行われるようです。但し掲載するのは「工業標準の名称及び番号並びに制定、確認、改正又は廃止の別及びその年月日」であり、内容を掲載するとはかいてありません。

内容はどうなっているのでしょうか?そこで官報を調べます。

(平成9年1月20日 官報 第2058号 11ページ 4段目)

官庁報告

産業
日本工業規格
日本工業標準調査会の調査審議を経て、通商産業大臣により、平成9年1月20日下記の日本工業規格が制定及び改正された。(通商産業省)

1 制定された日本工業規格
  プログラマブルコントローラープログラム言語 B 3503
プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法 K 7361-1
アルペンスキー用のスキー・ビンディング・ブーツ(S-B-B)システムの組立、調整及び検査方法 S 7028
図形文字の短縮識別名称 X 0218
2 改正された日本工業規格
  クラッチ及びブレーキ用語 B 0152
ドリル用語 B 0171
ねじ部品-引張疲労試験-試験方法及び結果の評価 B 1081
六角穴付き止めねじ B 1177
ボールねじ B 1192
プレス型用シャンク B 5003
プレス型用ダイセット-精度及び測定方法 B 5031
プラスチック金型用ディスクスペーサ B 5120
携帯用クーラーボックス S 2048
7ビット及び8ビットの情報交換用符号化文字集合 X 0201
7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合 X 0208
(内容省略)
備考 内容は、工業技術院標準部、各通商産業局、沖縄総合事務局通商産業部及び都道府県庁において閲覧に供する。

備考に「内容は、工業技術院標準部、各通商産業局、沖縄総合事務局通商産業部及び都道府県庁において閲覧に供する」と書いてあります。そこで「閲覧」しにいってみます。

するとナント「閲覧に供」されていたのは、私が持っているのと同じ「財団法人日本規格協会発行の規格票」でした。

この事実は何を意味するのでしょうか?なぜ「主務大臣発行の規格票」ではないのでしょうか?
疑問は深まるばかりです。

そんなとき、少し良い本をみつけました。「平成9年版 工業標準化法解説」(財団法人通商産業調査会出版部)。編者は通商産業省工業技術院標準部です。

(平成9年版 工業標準化法解説 16ページ1行目から)

JIS規格票の印刷・発行
JIS規格票の印刷・発行は、工業技術院の監督のもとに財団法人日本規格協会が行っている。JISの制定・確認・改正又は廃止の官報公示が行われるのと並行して、調査会の事務局である工業技術院標準部は、制定又は改正されるJISの原稿を日本規格協会に回付し、同協会がその原稿に基づいてJIS規格票を印刷・発行し、その窓口を通じて関係者に販売・配布している。

「回付される原稿」は、著作権法13条二号に該当しそうです。しかし最終的に発行される規格票は日本規格協会の著作物(編集著作物)である可能性が依然あります。

ここまで調べたところで、思い切って工業技術院標準部に電話で聞いてみました。すると親切かつ明快に回答してくれました。

(工業技術院標準部のコメント)

日本工業規格として正しいものは、「回付される原稿」ではなく最終的な出版物である規格票である。
日本工業規格そのものは著作権法13条に該当する。
日本規格協会発行の規格票の著作権については意見のわかれるところであるが、規格票をみながら新しく版をおこした場合、著作権法上の問題はないと思われる。
ただし規格票中の「解説」は、日本工業標準調査会の審議対象ではなく、当然主務大臣の公示対象でもないので、著者(原案作成者)に著作権がある。

もっともな見解です。最初から聞いておけばよかったと思いました。

おしまい

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