クラナドのメーンビジュアル(c)VisualArt's/Key/東映アニメーション/フロンティアワークス
高校3年生の岡崎朋也は、全校でも知られる不良少年。根は陽気でまじめなのだが、父親との確執や不運なけがなどから、自分自身で殻に閉じこもっていた。朋也はある日、学校の正門から続く坂の下で一人の少女と出会う。病気で1年間休学していた1歳年上の同級生・古河渚だった。気弱で自分に自信が持てない渚と自暴自棄な朋也はお互いに引かれ合っていくのだが、2人の前には悲劇が待っていた……。
「クラナド」は、ゲーム制作会社「ビジュアルアーツ」が、「Key」ブランドとして開発した恋愛シミュレーションゲームだ。同レーベルの「KANON」「AIR」に続く「感動系美少女ゲーム」3部作の最終章として、04年4月にPC版が、06年2月にPS2版が発売された。「感動系」とは、登場人物の死などの悲劇を乗り超えて、主人公が成長していく姿を描くスタイルで、熱心なファンからは「泣きゲー」などとも呼ばれる。05年に「あしたのジョー2」など、数々の名作を残してきた出﨑統監督で劇場版「AIR」が製作され、ファンを驚かせた。それから1年後の06年夏、「AIR」と同じ出﨑監督の手によって「クラナド」の劇場版アニメ化が発表された。
製作現場の陣頭指揮を取る東映アニメーションの木戸睦プロデューサーは「『AIR』の次は『クラナド』というのはほぼ規定路線だった」と振り返る。元々「KANON」「AIR」のアニメ化は、「Key」ブランドのゲームのファンだった同社の東伊里弥プロデューサーが手がけた。「KANON」「AIR」の物語性の高さにほれ込んだ東さんは、劇場版にふさわしい力量を持つ監督を探す中、“ダメモト”で申し込んだ出﨑監督が快諾。劇場版「AIR」が誕生した。
「AIR」の製作が終わった05年の秋から、劇場版「クラナド」の企画はスタートしていた。東さんが「AIR」の北米展開のため現場を離れるため、当時アシスタントプロデューサーだった木戸さんにバトンが手渡された。まず出﨑監督と中村誠さんの脚本のコンビと、クリアまで50時間かかるという長大な「クラナド」の物語を90分に凝縮する作業を進めていった。木戸さんがゲームをプレーし、DVDに同時録画して、打ち合わせ時にその映像を見ながらシナリオの方向性を決めるという地道な努力が続けられたのだ。
ゲームには、渚以外にも多くの美少女が登場し、朋也の人生に影響を与えていくのだが、出﨑監督が「ストレートに行こう」と、渚と朋也の2人にスポットを当てたシナリオにすることを決断した。木戸さんは「ゲームのエピソードは、すべてアニメ化したいぐらいいい話ばかりだったので、泣く泣く削った。でも、『クラナド』を知らない人に見てもらうには監督の決断は間違いない」と振り返る。
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3月10日、東京・秋葉原でキャンペーンが展開された。渚の制服姿のコスプレーヤー6人が登場、アニメショップ「アニメイト」やメード喫茶「ぴなふぉあ」などを回り、50インチのモニター12面を設置した特製バスで、予告編を初公開した。同28日には、アニメイトやゲーマーズなどの専門店で特報映像を収録したDVD付き前売り券の発売が始まった。
予告編やポスターには「大切な人をなくしたことがありますか?」という印象的なキャッチコピーが登場するが、「『クラナド』を一言で表すと」という木戸さんのオーダーに中村さんが答えたものだという。木戸さんは「心に残る物語を作ろうというコンセプトにピッタリだった」と話す。3部作の集大成となる劇場版「クラナド」。この秋、映画館が感動の涙であふれるのは、間違いない。
■“感動系”名作 ストーリー紹介
「Kanon」(99年)
7年ぶりに北国の街に引っ越してきた主人公の高校生・相沢祐一は、いとこで幼なじみの水瀬名雪や、ひょんなことから知り合った月宮あゆらと愛情を育んでいくのだが……。感動的なストーリーが大きな反響を呼び、家庭用ゲーム機にも移植され、テレビアニメ化もされた。「泣きゲー」をブレークさせた伝説のゲーム。
「AIR」(00年)
人形を動かす「人形遣い」として旅をしている青年・国崎往人が、海辺の町で出会った少女・神尾観鈴らとのひと夏の物語を描いている。時空を超えた切ないラブストーリーはやはり「泣きゲー」として多くの支持を集め、「Kanon」同様、家庭用ゲーム機でも展開。劇場版アニメを出崎統監督が手掛けたのも話題を呼んだ。
■声優陣の意気込みは…
岡崎朋也(おかざきともや):野島健児さん
劇場版ができるということでびっくりしています。予備知識がなくてもこの劇場版を見れば、作品としての素晴らしさが分かります。とても心を打つ話になっているのでぜひ見てください。
古河渚(ふるかわなぎさ):中原麻衣さん
初めての劇場版なので、シリアスなストーリーなんですが、自分の声が映画館で聞けるんだと思ってわくわくしながら収録しています。
坂上智代(さかがみともよ):桑島法子さん
自分は一人じゃないと感じて人は救われるんだなと思える作品で、家族の温かさを感じられる作品になっています。
藤林杏(ふじばやしきょう):広橋涼さん
自分が演じてきたキャラクターがスクリーンで動くなんてすごいことだなと思いながら演じています。人とのつながりを感じる作品になっているので家族や友だちを誘って見に来て下さいね。
岡崎汐(おかざきうしお):こおろぎさとみさん
この作品には、一人の人間が落ち込んだ後で起き上がっていくという姿が描かれています。そんな姿を見て一人でも多くの人が元気になってくれればいいですね。
古河秋生(ふるかわあきお):置鮎龍太郎さん
アニメ版で初めて動く映像に声を当てていったので、渚とも本当の親子になれた気がしました。
古河早苗(ふるかわさなえ):井上喜久子さん
壮大なストーリーだと思っていたので、劇場版になるのが幸せだなと思いながら演じています。子供のころに親しんでいた出崎監督の作品に出られるのがとてもうれしいですね。
芳野祐介(よしのゆうすけ):緑川光さん
「AIR」で主人公を演じた経験を生かして、野島さんや中原さんをサポートしていきたいです。個人的に皆口さんのファンなので、カップルという設定には“萌え”ますね(笑)
伊吹公子(いぶきこうこ):皆口裕子さん
学校の先生という役なので、「こんな先生がいたらいいな」と見ている人に思ってもらえればいいな。見終わった後に家族や友だちを大切にしたいと思えるはずです。
春原陽平(すのはらようへい):阪口大助さん
ゲーム版と比べてシリアスになっているのでその違いに注目してもらえるとうれしいですね。それでも馬鹿な春原が一服の清涼剤になればいいなと思います。