松林に横たわる証人
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地面にむき出しになって残る兵舎跡。松林もまた当時の証人だ=加古川市尾上町、浜の宮公園 |
猛暑の街に松林がやさしい陰をつくる加古川市尾上町の浜の宮公園に、古く大きなコンクリート柱が横倒しになっている。旧陸軍航空通信学校尾上教育隊の西門だ。
松林の中には教育隊兵舎跡のコンクリート基礎が今も点々と残っていて、市が保存する一角以外にも、あちらこちらに見つけることができる。
「大きな木造兵舎がたくさん並んでいた。二階建ても平屋もあった。大きい兵舎は飛行機が格納できるくらい広かった」
近くに住む中谷壽美夫さん(74)は、しみじみと回想する。すぐ南には旧陸軍加古川飛行場(尾上飛行場)が広がっていた。付近の民家に下宿する将校は多かったが、一般の人と軍人が親しく交流する機会はあまりなかったという。
「みんな大きくなったら軍人になるんだと思っていたから、特別な存在じゃなかったし」と地元町内会長の大篠昭雄さん(70)。それに兵舎跡の記憶は、戦争だけでなく、戦後の生活苦の思い出も呼び起こすという。
戦後、兵舎は中学校になり、食べ物がない生徒らは、授業で畑に麦を植えさせられた。重労働がつらく、家に帰ってもまた農作業の毎日。「勉強する間なんてなかったですよ」
大篠さんらは在学中、一部の兵舎を撤去し、コンクリート基礎を取り除いてグラウンドをつくったという。その時に植えた松が大きく育ち、今は公園に憩う人々をやさしく包み込んでいる。
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