ひょうご防災新聞  Disaster file

12.緊急地震速報

(2005/10/02)
激震 到達前にキャッチ/宮城県沖で成果、実用化へ

 地震が起きても、大きな揺れが来る前に情報をキャッチできれば―。そんな「願い」を可能にするのが、気象庁が試験運用中の「緊急地震速報」だ。今年八月の宮城県沖の地震では、震度5強を観測した仙台市で実際に揺れ始める十六秒前の速報に成功、注目を集めた。わずかな時間であっても、速報を活用することで、家庭での火元確認や鉄道の緊急停車、工場の操業停止など被害軽減が期待できる。実用化の見通しを探った。

 地震波には、最初に到達する速い初期微動(P波)と、遅れてやってくる主要動(S波)がある。被害をもたらすのは大きく揺れるS波だ。

 速報はこの時間差を利用。全国百二十三カ所にある新装置「ナウキャスト地震計」が震源近くでP波をとらえ、震源位置や地震の規模、各地の震度を予測、S波の到達前にインターネットや衛星通信でパソコンなどに情報を流す。

 気象庁は昨年二月に試験運用を始め、公共施設や企業など約百五十機関が参加。宮城県沖の地震では、「県南部で震度5弱程度以上」との速報が、仙台市の国土交通省東北地方整備局などでS波到達の十六秒前に表示、残り時間のカウントダウンを始めた。

 P波とS波の時間差が少ない直下型地震では効果は薄いが、海溝型の南海地震が紀伊半島沖で起きれば、「神戸には三十秒ほど前に速報を出せるのでは」と同庁はみる。

 気象庁の試験運用に参加する業界団体「電子情報技術産業協会」は今年四月、兵庫県を含む全国約三百世帯の一般家庭に速報を配信する実験を始めた。各世帯の警報装置から、音声で「震度○の揺れが×秒後に来ます」と流す。自動的にガスが止まり、避難しやすいように玄関ドアが開くなどのシステムも開発中だ。

 実験では四月の千葉県を震源とする地震で、東京都八王子市の民家に「震度3」を十七秒前に速報。子どもが「お母さん、怖い」と反応し、母親はコンロの火を消して落下しそうな物が少ない部屋に移動、子どもを抱きかかえたという。実用化後の費用は、警報装置は十万円以内、ネットでの速報の受信だけなら月額数百円に落ち着きそうだ。

 ただ、一カ所の地震計から各地の震度などを予測するため、精度には限界がある。実際は震度4の地震を5弱と速報することやその逆も。落雷での誤作動の恐れもある。

 「誤報」でも工場や発電所の操業を止めれば、経済的な損害は生じる。速報が正確でも、何をすべきか事前に決めておかなければ、とっさには判断できず、群集の中ではパニックが起こりかねない。

 同庁は「情報の受け手が緊急速報の限界とリスクを理解した上で、どう活用するかが課題。この点を見極め、本格運用したい」と話す。

【Q】地震保険に加入するには

【A】 地震保険単独での加入はできず、必ず火災保険とセットでなければならない。すでに火災保険に入っている場合、契約期間の途中からでも追加できる。損害保険会社の窓口に聞いてみよう。

 巨大地震の場合、保険会社の支払い能力を超えることが予想されるため、地震保険は政府が再保険という形で責任を担い、官民一体で運営。どの保険会社で加入しても保険料などの仕組みは同じだ。

 地震による津波、地震を原因とする火災などの損害も補償する。地震による火災の場合、火災保険では保険金が支払われないので注意すること。保険料は地震の危険度に応じ、都道府県ごとに4段階に分けられており、兵庫県は2番目に高い等級に属している。


大地の科学    觜本 格   神戸市立飛松中教諭

がけ崩れ  土石流の現場で学ぶ

 六甲山地は、地下の深い所でマグマがゆっくり冷え固まった花こう岩が隆起してできた山地である。一方、市街地のある平野部は、大雨のたびに川が山から運んできた土砂がたまってできた扇状地や三角州である。

 山が材料を提供し、川が仲介して、平野がそれを受け止める。この山と平野の関係を学んだ生徒達を、いよいよ野外に連れ出してのフィールドワークである。

 須磨区にある飛松中学校の裏門を出て5分ほど山の方へ行くと、砂防ダムに突き当たる。えん堤にはこの川が「土石流危険渓流」であることを示すマークが掲げてある。

 えん堤を越えた所で、谷の斜面の岩石に注目する。手に取ると形を保つことなく完全にばらばらになる。激しく風化した花こう岩である。墓石や石垣に使われている美しく硬い岩石とは、とても同じものとは思えない。

 この花こう岩は、5ミリほどの大きさの石英・長石・黒雲母の鉱物からなる深成岩である。新鮮な花こう岩は鉱物が互いにしっかりとくっついていて、とても硬い。ハンマーで力いっぱいたたいても、カーンという音がして跳ね返され、簡単に割れない。

 ところが、この場所の花こう岩はとてももろい。鉱物と鉱物がくっついていない。まるで砂そのものと言ってもよい。風化した花こう岩はこのように崩れやすいから、この谷筋の斜面の各所でがけ崩れが起こった跡を見ることができる。

 山地では大雨が降るとがけ崩れが発生し、その土砂が谷底にたまっていく。数年〜数十年に一度の集中豪雨によって、その土砂は土石流として下流に運び出される。

 その土石流を防ぐために、河川には砂防ダムが何個所にも設置されている。実際に、砂防ダムの上流側には、土砂が大量に堆積(たいせき)している。「ここはミニ平野なんだ」と言った生徒がいた。実に適切な表現なので、感心してしまった。

 生徒達はこの日の野外観察で、硬い花こう岩が風化してもろくなり、崩れて、運ばれて、堆積するという一連の過程とそのために発生するがけ崩れ、土石流のことを実物で学んでくれたはずである。

(はしもと・いたる)

 
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