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マウスガード

あご安定 競技力アップ

 北京五輪金メダルの女子ソフトボールのエース上野由岐子さんが、試合中、歯に白いものを装着していたことに気づいた人もいるはずだ。ボクシングなどで、けが防止のために使われてきた「マウスガード」と呼ばれるもので、最近は、多くのスポーツで使われるようになってきた。(藤田勝)


 

 マウスガードは軟らかい樹脂製で、通常、上の歯に総入れ歯のようにかぶせる。衝撃を吸収して歯やあごを保護し、脳しんとうや首のけがも防げる。ボクシングやアメリカンフットボール、高校ラグビーなどでは、競技団体が使用を義務づけている。

 しかし、最近は野球やソフトボール、スキーなど身体接触が少ないスポーツでも使用が増えている。日本大学松戸病院で「スポーツ歯科」を担当する歯学部教授の川良美佐雄さん(口腔(こうくう)機能学)は「利用する選手は増えているが、かみしめることで力が増すという研究もあれば、変わらないという研究もあり、競技能力の向上効果には未解明な点が多い」と指摘する。

 そこで川良さんは、選手の顔や頭の筋肉に電極をつけて、重量挙げやサッカーのヘディング、ゴルフの打つ瞬間などの筋肉の活動を調べた。すると、かむ際に働く側頭筋や(こう)筋などより、あごの下を前後に走り、あごを安定させる(がく)二腹筋などの方が3倍以上も強い力で働いていることがわかった。

 川良さんは「かみしめることで力が出るというより、マウスガードがあると軽くかむだけで、下あごが安定し、能力が発揮しやすい可能性がある」と指摘する。

 同大で行っている使用者への聞き取り調査によると、上野さんはもともと舌をかんであごを安定させる癖があるが、「マウスガードを付けると、歯がこすれ合わずに下あごの位置が決まるので、集中して投げられる」と話していたという。

 日本大学スキー部3年生の宮里美さん(21)。高速でポールに当たると歯が折れる場合があり、けが防止にもなるが、期待するのは競技成績の向上だ。「大回転などでミスしてタイムが遅れた時、マウスガードがあるとふんばれる感じ」と話す。

 また、脳性マヒ患者のサッカーチームでも効果があった。患者は脳の障害でふいに強くかみしめることがあるが、装着すると、体の揺らぎが減り、動きが速くなったという。

 マウスガードには、スポーツ用品店で販売している半既製品と、歯科医によるオーダーメードがある。半既製品は、お湯でやわらかくして、口の中で自分で成型する。1000円程度から。歯科では、型をとって作るため、はずれにくく、かみ合わせの調整もしてもらえる。費用は1万円から3万円程度だ。けが防止目的なら厚さが4ミリ・メートル程度だが、あごの安定が目的なら2ミリ・メートル程度でも十分だ。

 川良さんは「利用者の多くが効果を実感している。試みる価値はある。かみ合わせが悪いと、あご関節を痛めるので、できれば歯科医師に作ってもらう方がいい」と助言する。

2009年2月27日  読売新聞)
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