清水和夫の持続可能なクルマ社会
#5 気になってしまう日本の状況
未曽有の金融危機が引き起こしたアメリカの自動車産業の苦境、日本に及ぶ影響、そして問題点は…。ここで一度議論をまとめることにした。【聞き手:自動車専門動画サイトStartYourEngines.jp 徳田真紀編集長】
ハイブリッド車の先駆的存在、トヨタ・プリウス |
徳田 いままでアメリカで起きた金融危機と自動車危機について、いろいろな話を伺いましたが、ここでまとめてみることにします。間違っていたら指摘してください。アメリカの状況はとても深刻であること。そして電気自動車やハイブリッドという新しい自動車を普及させることで、環境問題と経済問題を同時に解決させるという政策があることが理解できました。そもそも問題は日本ですよね。これからどうなるのでしょうか?
清水 日本は、欧米よりも立ち直りが遅れるかもしれません。何せ日本ではクルマは輸出産業の代表選手なので円高が続くとかなりピンチです。そして、クルマが売れなくなった理由が金融危機だと考える関係者は少なくないのですが、本質的な問題はクルマの魅力が時代に即していないのかもしれません。ですから日本の自動車危機はもう少し複雑で深刻かもしれませんね。
徳田 でも、歴史を振り返ると「オイルショックや円高」を乗り切ってきたのではないですか?日本の自動車産業は底力があると本で読んだことがありますが。
清水 たしかに日本のGDP(国内総生産)をけん引してきた立役者でした。でも、80年代後半から安い労働コストを求め世界中に工場進出したのです。これがグローバル化の始まりでしたね。でも、気がつけば円は再び安くなり、笑いが止まらないくらいもうかったのです。その結果、日本メーカーは裕福になり、自家用飛行機で世界中を飛び回るようになったのです。自家用飛行機がいけないとはいいませんが、無意識のうちにぜいたく病が組織の中にはびこったかもしれません。
徳田 円高が続くと輸出ではもうからない!ではどうやって生きていくのでしょうか?これ以上海外に工場を進出させると国内生産が減少し、雇用問題にも発展しかねないですね。
清水 それだけではなく、自動車メーカーがある国で自動車産業を直接的に資金援助するとほとんどの国が表明していますが、日本は自動車産業を助けるとは政府は発言していないのです。派遣雇用の問題がマスコミで騒がれましたが、ごく一部のケースを除いては、期間工を使っていたので容赦なく雇用をカットしたケースはまれだと思います。最後は自動車メーカーを支援するから雇用はしっかりと守りなさい!という強いリーダーシップが政府になかったのです。これは海外とは大きな違いでした。
徳田 つまり、独自で生きていけ!ということですか。
清水 というか、政府の関係者に日本の状況を楽観しする意見が多いのでは?トヨタは2008年度の第3・第4四半期でいくらの損失を出したのか?その原因をトヨタのビジネスモデルに照らしてみると、あ然とするくらい危ういビジネスなのです。
徳田 つまり?
徳田 でも、プリウスのようにトヨタのハイブリッドは人気があります。
清水 10年間で170万台のハイブリッドを販売しました。今年は4機種も新型のハイブリッドを出すので期待されていますが、まだ利益がたくさん出るまで至っていないのです。
徳田 新型プリウスがすごく安く販売されると言われいてますが、利益は少なそうですね。
清水 ホンダを意識したのかどうかは分かりませんが、お互いにハイブリッドで価格戦争は避けるべきです。せっかくの新しい価値を持ったクルマなので、しっかりと技術を進化させる必要があるし、コストはまだ普通のクルマよりも高いはずです。無益な価格戦争はお互いに消耗するだけなのです。
徳田 最近驚いたのですが、東京モーターショーに主要な海外メーカーが出ないみたいですね。日本で最も台数を販売しているVW・メルセデス・BMWがそろって出展をやめました。結果的にアメリカのビッグ3も、イギリスのジャガーやランドローバーも、スウェーデンのボルボも辞退しました。日本は忘れられてしまうのでしょうか?
清水 たしかに残念ですね。でも海外メーカーから見ると日本はアジアの一つの地域に過ぎないのです。この話は次回にしましょうか?
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清水和夫プロフィル 1954年生まれ。1972年ラリーにデビュー。マカオGP、ルマン24時間、ニュルブルクリンク24時間レースなどレーシングドライバーとして国際経験も豊富で、ドライビングを科学的に分析する第一人者。世界を飛びまわり最新のテクノロジーから21世紀型の自動車社会を提言し雑誌TVで活躍中。著書「ディーゼルこそが地球を救う」「クルマ安全学のすすめ」など
徳田真紀プロフィル 大学卒業後、某国産自動車メーカーのセールスを経験後、自動車チューニングパーツメーカーで海外営業などを行う。2006年のStartYourEngines.jpの立ち上げから関わり現在では自動車メディア唯一の女性編集長として日々奮闘している。
[ 2009年04月03日]