スキー場のBGMとしてはもちろんのこと、“そこ”にたどり着くまでにより気分を盛り上げるための一種の栄養ドリンク剤として、いまやスキー・リゾートと切っても切れない関係にある「ゲレンデ・ソング」。この「ゲレンデ・ソング」という呼び名がいつ頃定着したのかは定かではないが、その始まりはユーミンこと松任谷由実がアルバム『SURF & SNOW』を発表した1980年にまで遡る。ユーミン=ゲレンデという図式がより明確になるのはこの7年後、ホイチョイ・プロダクションズ製作・原田知世主演の映画『私をスキーに連れてって』に『SURF & SNOW』収録の「サーフ天国、スキー天国」「恋人がサンタクロース」が使用されてからになるが、すでに当時(80年代初頭)から、誰もが胸をときめかせるリゾート・ソングを多数世に送り出し、バブル景気に向かって無駄に勢いづいていた女子大生〜OLたちから「教祖」として崇められつつあったユーミンこそが、「元祖・ゲレンデ・ソングの生みの親」といえるのではないだろうか。 そんなユーミンに代わって90年代、次々と秀逸なゲレンデ・ソングを生み出し、文字通り「冬の女王」として君臨したのが、広瀬香美である(その前に短命ながら「Choo Choo TRAIN」でおなじみのZOOの時代もあったが……)。デビュー翌年(1993年)、「ロマンスの神様」がスキー用品でおなじみのアルペンのCMソングに起用され、これがなんと170万枚を超える大ヒットを記録。以降も、「幸せをつかみたい」「ゲレンデがとけるほど恋したい」「promise」などをチャートの上位に送り込むことに成功。そのほとんどがアルペンのCMソングであったというのも、「冬の女王」を「冬の女王」たらしめた大きな要因といえよう。 以上のように、80年代はユーミンが90年代は広瀬香美がと、この2人の歌姫がリードする形で冬の風物詩として定着した感のあるゲレンデ・ソングだが、(特に女性ボーカルものに限っていえば)2000年代突入以降は大きなヒットに恵まれなくなる。もちろん、スキー・シーズンの到来を告げるゲレンデ・ソングが世に出なかったわけではないが、聴き手の趣味の多様化やライフスタイルの多様化などもあり、例えば「ロマンスの神様」や「ゲレンデがとけるほど恋したい」のようにそれらが「定番化」することはなかった。果たして、この状況はいつまで続くのか、そんな疑念さえも頭をもたげていた矢先(?)ついに登場したのが、MAY’Sの「KISS〜恋におちて…冬〜」。日本最大級のスキー&スノーボードの販売イベント「WINTER SPORTS FESTA season8」テーマ・ソングとして大量オンエアされ、大きな話題を集めている最新の「ゲレンデ・ソング」である。 MAY’Sとは、昨年7月にメジャー・デビューを果たした女性ボーカルの片桐舞子とトラックメイカーの河井純一 a.k.a. NAUGHTY BO-Zからなる男女R&Bユニット。「KISS〜恋におちて…冬〜」は、彼らにとって3枚目のシングルにあたるもので、“恋におちた私は今 前よりずっと強くなれる 雪の魔法が溶ける前に 忘れられないアイシテルを”と歌われる、どこか淡く切ない冬のラヴソングだ。90年代の洋楽ブラック・ミュージックのエッセンスを巧みに採りこんだバック・トラックと情感豊かなボーカルが溶け合うことで生まれる情景描写も大きな魅力で、「ゲレンデで聴いてみたい」と誰しもが思ってしまう雄大さやロマンティックさも併せ持っているのもポイント。「新定番」になるべく条件は、すべて揃っているといっても過言ではない。「キスコイ」なんて愛称と共に、実際にすでに10代後半から30代の、幅広い層の女性から熱い支持を集めているこの「KISS〜恋におちて…冬〜」だが、同曲を含むMAY’S、待望の1stアルバム『Dreaming』も、この冬ぜひともチェックして欲しい一枚だ。「KISS〜」のほかには、記念すべきメジャー・デビュー・シングル「My Everything」や胸を締め付けるバラード「梢」、CLIFF EDGE & MAY'S名義で2007年に発表した「Dear…」の続編にあたる「DESTINY 〜for Dear...〜 feat. CLIFF EDGE」など全16曲を収録と、非常にバラエティに富んだ仕上がりになっている。 ちなみに余談であるがこのMAY’S、キャバクラ嬢に代表される夜の仕事を持つ女性にも大変高い人気を博しているとか。いまだ淫靡なイメージが付きまとうキャバクラ嬢たちとMAY’Sの歌、両者の因果関係こそ不明であるが、世の男性にとってはなかなか興味深い話である。いずれにせよ、これからの季節に欠かせないのは、ゲレンデがとけるほどのロマンティックな恋の歌。そういった意味でも、MAY’Sの「KISS〜恋におちて…冬〜」&『Dreaming』はやはり、聴き逃し・買い逃しは厳禁だろう。 |
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