地才地創
座談会「元気なひょうごをつくる」

 地域色豊かなことから、日本の縮図ともいわれる兵庫県。大規模な市町合併を経て、地域づくりにも新たな展開がみられる。「元気なひょうご」を目指したまちづくりを進める上で、独自の文化や産業、人材を生かした活性化が欠かせない。それぞれの強みを生かした地域づくりの展望について語ってもらった。


井戸 敏三さん
活力アピールできた国体
井戸 敏三さん
兵庫県知事
矢崎 和彦さん
作り手の思いを買い手へ
矢崎 和彦さん
(株)フェリシモ代表取締役社長
浅倉 陽子さん
成功例はどんどんまねる
浅倉 陽子さん
おさん茂兵衛DEたんば実行委員会企画運営委員長
加藤 恵正さん
蓄積された技術生かそう
加藤 恵正さん
兵庫県立大学経済学部教授

地域の「資源」再発見を/多彩な個性結び強みに

 ―昨年12月に地方分権改革推進法が成立し、地方の時代も第二ステージに入るなど、大きな節目を迎えました。兵庫の可能性や力を見つけ出し、これからの時代に生かしていくには、どうすればよいのでしょう。

  井戸 平成12年施行の地方分権一括法は、地方自治体が国の下部機関であった状態を対等な関係にしましたが、これは形式的な分権でした。それを実質的なものにするために、仕事への国の関与や義務付けなど事務のやり方を整理しようというのが今回の推進法だととらえています。

  第二ステージは、地方の自由度をあげるための分権を進めるもの。価値観が多様化する中、画一的、標準的な全国一律の行政ではまかないきれなくなっています。多面的システムにならざるをえない時代になりました。

  地域の個性には、住民のみなさんの願いが反映されています。個性や違いがあることこそが地方自治。だからこそ、財源にしろ、権限にしろ、自己責任、自己決定のシステムをつくり出さないといけません。

  ―地域経済の面では、格差が出てきている現状もありますね。

  加藤 日本経済全体が上り調子に向かいつつあります。兵庫県では、工場立地件数が全国一になるなど、関西への製造業の回帰もみられます。これまで、工場立地を強く規制してきた各種規制がやっと緩和されたことも貢献しているとみてよいでしょう。しかし、東京への一極再集中の動きは、地方の経済にとって大きなハンディになるわけです。その中で、兵庫県は工場立地が全国一位。関西経済の状況もよくなりつつあります。

  しかしながら、中部地方や東京の経済の上り調子に比べると関西地方が遅れていることも事実です。さらに兵庫県内では、全体が連動せず、経済状況が向上していない地域もあって、モザイク的な状態になっています。

兵庫を舞台に昨秋開かれた「のじぎく兵庫国体」の開会式=06年9月30日、神戸市須磨区のユニバー記念競技場

  井戸 今日まで震災の大きな傷跡を埋めてきました。今、ようやく「元気ひょうご」を目指すスタートをきれたという状況です。

  昨年の国体では、全国に向けて活力を示すことができました。県民総参加により大いに盛り上がり、兵庫の元気な姿を全国にアピールできました。震災からの復興を遂げた感謝の気持ちが、結果につながったのだと思います。

  企業の設備投資への意欲も高まっています。税収も平成十八年度は、ようやく六千億円台に回復する見込みです。企業の好調な業績は今年も続くでしょう。今まで設備投資を我慢していた中小企業の意欲も高い。

  デパートの売り上げが対前年を上回る月も見られ、消費者のみなさんも動き始めたのではと感じています。一部、地域的偏在もありますが、総じて元気を増しつつある状態です。

  矢崎 全体的にポジティブな方向に向かっているのは確かですが、まだ「まだら模様」の状態というのが現状ではないでしょうか。しかし、以前と比べると確実に状態はよくなっていると思います。

  ―県民の立場から見て元気な兵庫という実感はありますか。

  浅倉 ここ30年の間に地域活動は大きく変化しました。昔は、みんながひとかたまりで、統制がとれていましたが、今は、個々の考え方の違いが出てきたと思います。個人の意思が大切になってきました。

  みんな、それぞれ自分の活動がいいと思っていますが、一つ二つの活動では地域づくりはできません。いろんな活動があるのがいいですね。

  私たちの強みは自由であるということ。行政がなにかしようとすると公募しないといけませんが、私たちは同じ思いの人が集まればいいのです。思いが一つの仲間が集まったときは、たいてい成功します。

  ―兵庫県の強みを磨いていくためには何が必要でしょうか。

  加藤 兵庫県の持っているリソース(資源)を、どうやって引き出すかに尽きると思います。兵庫県には旧阪神工業地帯の核心部があります。ここは一時、衰退の代名詞のようになってしまったけれど、再び力を取り戻しつつあります。

  世界的にも古い産業地域が新しい展開を示していて、大阪ベイエリアでもイノベーションの動きが強くなっている。一見、衰退しているように見えても、そこには蓄積されている技術やものづくりのノウハウが埋め込まれているのです。これまで死蔵されていたり、隠れていたりしていたリソースをどう発掘するかが重要ですね。

  ―あまり目が向けられていなかった力をどう生かすかということですね。

  加藤 兵庫県には全国有数の地場産業もある。地場産業は、多様な仕事の場を提供することが可能で、広く地域にお金を浸透させ循環させることができます。

  また、地場産業にはイノベーションの歴史もあります。柳行李(こうり)がかばん産業になり、ケミカルシューズ産業は、マッチそしてゴム工業から展開してきたものです。その知恵と技術の継承は重要なリソースです。

  矢崎 私たちはもともと豊かな自然と生活文化の両方を持った兵庫県の人たちとも一緒に仕事をしたいと思い、震災後に本社を神戸に移しました。

  生活者の立場になったときに居心地がいい場所というのが今の時代には大切です。個人消費は経済を大きく左右します。それを刺激、触発するものに富んでいるのが兵庫県の決定的な魅力です。地場産業のお話が出ましたが、最近は、ものの買われ方が変わってきたと感じます。例えば豊岡のかばんに、それを手がけた職人の方の思いを伝えると驚くほどの反響があります。作り手の思いを語ることができる仕組みをつくれば、かなりおもしろくなると思います。

  また、生活者たちが表現したい時代になりました。インターネットの普及で情報の受け手が発信者に代わることも多くなりました。私たちのケースでも、お客様への呼びかけへの反応も早く、関心の高さはすごい。企業としてもお客様とともに、という取り組みを活力にしていきたい。

  浅倉 活動が活性化してくると、ほかの活動と連携しようという動きが出てきます。これまで、お寺や神社など集落と連携してきた「シューベルティアーデ街角コンサート」は、今年、加古川線久下村駅前での「ローカル駅コンサート」を企画しています。コンサート開演前は沿線の海の幸、山の幸を持ち寄った市場になります。そして、列車が楽屋となって演奏者を運び、駅に到着すれば今度はそこがコンサート会場になるのです。

  これは、沿線が多様な産業や文化を持っている兵庫だからこその企画で、生産者、地域住民、企業、行政、他の団体などと連携して初めて実現できると思っています。

  ―自然の豊かさや文化、地場産業と、あらためて兵庫県には多彩な資源があると感じます。

  井戸 兵庫県は文化度が非常に高い。文化は、する人、見る人、支える人の三要素がそろわないとできません。プロの芸術家もいますが、文化活動をしている市民がとても多いのです。五つの国からなる兵庫県だけに地域特性が豊かです。しかもそれぞれが、背負ってきた歴史や文化の違いを認め合っていることも強みになっています。

  地域ごとの資源や伝統文化に大変優れたものが多いのも特徴です。例えば姫路の灘のけんかまつりは全国的に有名な岸和田のだんじりより勇壮です。1年に1回、地域が燃えるだけの魅力を持っています。養父市の農村歌舞伎、播磨のこども歌舞伎など各地に地元の伝統芸能があります。

  ―それが地元では「あって当たり前」になっていて、今ひとつその価値に気づいていないところがあるのでは?

  井戸 例えば、その昔、生野の銀山でとれた銀を馬車で飾磨に運んでいました。それが、今の播但線になったわけですが、その「銀の馬車道」を再評価しようという構想を進めています。地元に伝わる歴史やものに物語をつけてアピールすると、あらためて感動を呼ぶことができる。そんなシナリオライターが必要です。

  加藤 「地域を編集する」という発想ですね。地域ごとに、うまく編集すれば光るリソースがたくさんあります。

  また、兵庫には震災の経験から、市民と企業の新しい関係ができています。企業が、いろんなかたちで地域とのかかわりを持つことで、社会貢献につなげようという意識をビジネスのデザインとして持っている。実践している会社も多い。そこに行政が加わって、新しい編集をすることができる。知事が「編集長」というところですね。

  地域の産物が安全、安心であり、個人の名前がついたものが好まれる傾向は強い。豊岡で作られている化学肥料や農薬を使わない「コウノトリの舞」ブランドの米は、価格は高いけれど、ひっぱりだこの状態です。コウノトリの野生復帰にかける地域の思いを買おうという動きです。

  地域の持っている「ストーリー」をうまく編集できればおもしろくなります。

  ―産業面での強みはどこにありますか。

大型放射光施設「スプリング8」を有する播磨科学公園都市は、兵庫の未来を切りひらく貴重な“財産”

  井戸 産業構造をみると、組み立て産業は少ないのですが、部品を供給する企業が大変多いのが特徴です。その背景には、地場産業や中小企業が絶えず技術の近代化に努めてきたことがある。中小企業の支えがあるからこそ、大きなメーカーが立地できる。そんな構造が兵庫県の強みとして再評価されています。

  また、大きな拠点も育ってきました。西播磨の「スプリング8」も10年たって産業利用の可能性がみえてきた。今後、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーの分野での活用も広がってくるでしょう。

  ポートアイランドの神戸医療産業都市でも先端医療分野での新たな産業の発展に期待が膨らんでいます。

  さらに従来の重厚長大の企業が再構築を始めました。鉄や重工、電機の分野の産業がこれまで活用していなかった自己能力を発揮しつつある。

フェリシモが全国の会員に呼びかけて集まる「ハッピートイズ」は、神戸ルミナリエに合わせて、毎年、街頭に展示され、人気を集める

  矢崎 震災を体験したというのは兵庫県の強み。企業も震災からの復興に対してさまざまな行動を起こしてきました。その結果、被災地はもとのまち以上に美しくなった。もう10年、20年、あれぐらいのがんばりをみせれば、どんなにすごいことができるか。

  ―県民、行政、企業の連携で強みが発揮できそうですね。

  井戸 復旧、復興を経て、新しい飛躍のときを迎えています。ポスト国体の時期は、もう一度原点に帰って、兵庫をどうしていくかを考えるいい機会です。

  現在、「美しい兵庫」の目標を掲げてビジョンを推進していますが、もう一度ゼロから県民のみなさんに夢を語っていただき、パブリック・インボルブメント(住民参加)を重視しながら、参画と協働で進めていきたいと考えています。

  浅倉 市民活動は、最初は夢から入る。ただボランティアであっても責任がある。やりとげるためには、義務感が必要です。「何のために」「だれのために」するのかを考えることが大切で、イベントを開くことが目的になってしまってはだめです。

  また、地域の情報は、どんどん外に出すべき。そのことによって情報が肉付けされます。昔は、情報はトップしか知らないことが多かったけれど、これからの地域活動では、情報をすべて流すことが大切だと思います。

  そして成功例はどんどんまねをすべきです。それぞれの地域に個性があるから、まねをしたからといって決して同じものにはなりませんから。

  ―地域に秘められた遺産や、才能を持った人たちがもっともっといるのではと認識を新たにしました。

丹波発市民参加型創作オペラ「おさん茂兵衛」の上演風景=06年春、たんば田園交響ホール

  矢崎 時代が激変している今、「思い」を持ったすべての人にチャンスがある。学生の立ち上げたベンチャービジネスが大成長したり、アメリカの本屋さんが世界中で本を販売するようになったり。立場や国境を越えて可能性が広がる中で、日本をよく知っていて、経験も積んでいるわれわれが、すばらしいリソースのある兵庫を舞台に何ができるか。青天井の可能性がある。それをものにするには行動あるのみです。

  浅倉 「この地域に住んでいてよかった。ここで死ねるのが幸せ」と思えるためには、どう行動すればいいか。私たちは、自分が年をとったときに散歩をしながら必要な薬草を摘める地域の特徴を生かしたした「薬草ロード」の構想を持っています。長いスパンでとらえる活動も必要だと思います。

  加藤 これからは、自立的な地域のありようを模索していくことになる。震災をきっかけに、地域の問題を解決するために経済的メカニズムを起動させたり、社会的領域にビジネスセンスを持ち込んだりという形が動き始めている。

  兵庫はまさしく突破口を開き、先陣を切っている。それを地域の厚み、豊かさと結びつけるのが重要な課題です。

  井戸 兵庫県民は、好奇心が強く、新しいもの好きなところがあります。洋服や食品など生活産業の質のレベルが高い。神戸で育っても全国展開していくに伴って県外へ移転する企業が多いのが残念でもありますが、ここで成功すれば全国で通用することの証明ともいえます。「兵庫らしさ」をますます磨くことで強みが発揮できると思います。

  自由な活動が展開できて、多様な県民の要求にこたえることができる兵庫づくりを進めたいと思っています。


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