旅をテーマに図書館の書棚を漁っていると、どうしても眼についてしまうのが、T村先生の本である。この人の書くものは、各種割引切符を使ったり、夜行列車を乗り継いだりして、安上がりの旅行を楽しむための「ノウハウ本」として、私にはもっぱら認識されていた。

ところが、それは私の認識不足であった。彼の著書は、図書館のある一定の領域において、やたらと冊数を占めているのである。それは「運輸・鉄道」の類のコーナーであったり、あるいは「紀行」のコーナーであったりする。しかし、それにしても随分な多作ぶりである。そして、本の内容は、「JRの最南端の駅から最北端の駅までの32時間乗り継ぎ旅」とか、「駅名に『温泉』の付くところを片端から巡る全国縦断の旅」とかの行程を時系列で綴ったものが多い。

私もそうだが、「旅情」とか、「遠くへ行きたい」というような心情は、誰もが持ち合わせていると思う。そして、そうしたメンタリティを満足できない場合、すなわち仕事や学校がある等の理由で「旅」に出ることが叶わない場合、手軽にその代替物となってくれるのが、紀行文であり、旅のルポものであり、鉄道ミステリーものであり、またこの人の本であろう。

確かにこの人の本を読めば、北海道の温泉や九州のさつま揚げが出てくる。名物駅弁や寝台列車が出てくる。しかし、それは「素材」の魅力であって、この人の書くものの魅力に拠るところは案外少ないのではないか。この人の書くものの中で、唯一この人ならではと思わせるところは、「温泉の脱衣場が汚ない」とか、「イクラ丼の盛りが少ない」とか、「同行者の仕切りがまずい」とかいった「苦言・お小言」の類である。「カンシャクみたいなものを起して、おしっこの出たいのを我慢し、中腰になって、彼は、くしゃくしゃと原稿を書き飛ばし、そうして、身辺のものに清書させる。それが、彼の文章のスタイルに歴然と現れている」(太宰治『如是我聞』)というフレーズを図らずも思い出す私であった。



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青春18きっぷの旅
『駅前温泉汽車の旅PART2』 (徳間書店・1993年)



『「銀づくし」乗り継ぎ旅』 (徳間書店・2000年)



『日本あちこち乗り歩き』 (中央書院・1993年)



『汽車旅十五題』 (日本交通公社・1992年)



『きしゃ記者汽車』 (創隆社・1984年)



『駅前温泉汽車の旅PART1』 (徳間書店・1993年)



『そばづくし汽車の旅』 (徳間書店・1991年)



『日本縦断JRウオッチング』 (徳間書店・1989年)



『気まぐれ列車に御招待』 (実業之日本社・1989年)



『東京ステーションホテル物語』 (集英社・1995年)



『バス旅 春夏秋冬』 (中央書院・1997年)



『気まぐれ列車の時刻表』 (実業之日本社・1984年)



『遥かなる汽車旅』 (日本交通公社・1996年)



『快速特急記者の旅』 (日本交通公社・1993年)



『史上最大の乗り継ぎ旅』 (徳間書店・1992年)



『「青春18きっぷ」の旅』 (徳間書店・1992年)



『鉄道を書く 自選作品集2』 (中央書院・2000年)



『日本縦断JR10周年の旅』 (徳間書店・1997年)



『気まぐれ列車は各駅停車』 (実業之日本社・1986年)



『時刻表の旅』 (中公新書・1979年)



『気まぐれ郵便貯金の旅』 (自由国民社・1997年)



『鉄道を書く 自選作品集1』 (中央書院・1998年)



『レールウェイレビュー 国鉄激動の15年』 (中央書院・1986年)



『気まぐれ列車が大活躍』 (実業之日本社・1996年)



『新版 汽車旅相談室』 (自由国民社・2000年)



『気まぐれ列車と途中下車』 (実業之日本社・1991年)



『新・地下鉄ものがたり』 (日本交通公社・1987年)



『日本縦断・「郵便貯金」の旅』 (徳間書店・1995年)



『気まぐれ列車も大増発』 (実業之日本社・1992年)



『アメリカ大陸乗り歩き』 (中央書院・1995年)



『気まぐれ列車や汽車旅ゲーム』 (実業之日本社・1994年)



『さよなら国鉄最長片道きっぷの旅』 (実業之日本社・1987年)



『日本縦断鈍行最終列車』 (徳間書店・1986年)



『気まぐれ列車だ僕の旅 九州・南西諸島渡り鳥』 (実業之日本社・2000年)



『汽車旅ベストコース』 (中央書院・1989年)



『日本縦断朝やけ乗り継ぎ列車』 (徳間書店・1998年)



『ユーラシア大陸飲み継ぎ紀行』 (徳間書店・1996年)



『ぶらり全国乗り歩き』 (中央書院・1994年)



『終着駅の旅』 (講談社現代新書・1981年)



『乗ったで降りたで完乗列車』 (創隆社・1983年)



『どんじり駅への長い旅』 (創隆社・1985年)



『汽車旅日誌1982・1983』 (創隆社・1985年)



『続・汽車旅日誌1984・1985』 (創隆社・1986年)



『貴婦人C571の軌跡』 (創隆社・1985年)



『時刻表から旅立つ』 (サンケイ出版・1985年)



『おもしろ駅図鑑1東日本』 (保育社カラーブックス・1988年)



『おもしろ駅図鑑2西日本』 (保育社カラーブックス・1988年)



『駅を旅する』 (中公新書・1984年)



『汽車旅日本列島』 (創隆社・1984年)



『鉄道を書く 自選作品集3』 (中央書院・2000年)



『気まぐれ列車で出発進行』 (実業之日本社・1984年)



『鈍行急行記者の旅』 (日本交通公社・1983年)



『新顔鉄道乗り歩き』 (中央書院・1990年)



『鉄道を書く 自選作品集4』 (中央書院・2001年)



『駅の旅その1』 (自由国民社・1999年)



『駅前旅館ざっくばらん』 (サンケイ出版・1986年)



『新・国鉄2万キロの旅』 (廣済堂出版・1983年)



『駅の旅その2』 (自由国民社・2000年)



『鉄道を書く 自選作品集5』 (中央書院・2002年)



『日本の鉄道なるほど事典』 (実業之日本社・2002年)



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